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海外駐在妻物語26

ムボーなる挑戦

カナダで当時住んでいたアパートの近くに
【Sheridan College(シェリダン カレッジ)】という大学があった。
日本のいわゆる【大学】というのとは違い、市民が好きな講座を選択して
受講することが出来る大人向けの専門学校のようなところだ。
無論、入学試験もない。
英語や数学などの講座もあるが、パソコンや料理、カメラのような
趣味の分野の講座もある。
夏休みに、その学校の講座案内の小冊子が我が家のポストに入っていた。

カナダは2つの言語を公用語に持つ国だ。
英語とフランス語。
私たちが住んでいたトロント近郊は、英語が公用語なので、
日常にフランス語を聞くことは、まずない。
ただ、いろいろな商品のパッケージは、英語とフランス語の併記を
義務付けられているので、
例えば、牛乳のパックには英語とフランス語とで表示があり、
こちらの面には【MILK】と書かれているが、
反対面には、【LAIT】とフランス語で書かれている。
トロント市のあるオンタリオ州より西では、【MILK】の面を
正面に向けて商品が並べられ、
お隣のモントリオール市などがあるケベック州から東では、
【LAIT】の面を向けて売られている。
そこでは、道のストップサインも、STOPではなく、ALARTとフランス語だ。

夫は、仕事の関係で、フランス語圏の人と話すこともあり、
フランス語に興味を持ったようだった。
9月から新学期が始まるシェリダンカレッジの講座で、
フランス語を取ろうと思う、とカレは私に告げた。

2月から英語の学校に通い始めて半年、その頃には
私も随分と英語が聞き取れるようになってきていた。
ESLの学校で先生がおっしゃることのほとんどは、
わかるようになってきていた私は、そんな夫に触発され、
私も何か趣味の講座を取ってみようかと考えていた。
フランス語は私には到底ムリであるが、何か私にも興味が湧くものが
あるかもしれない、、、とパンフレットを眺めていた私の目が
1つの講座を見つけた。

【Water Color 1 for Beginners】

絵を描くのはもともと好きだ。
英語が多少わからなくても、実技を伴うものなら、
見ればなんとなくわかるのではないか・・・。
英語を勉強するだけでなく、好きな絵を描きながら英語に触れれるなら
こんな楽なことはないかもしれない・・・。
水彩画なら、さほど特殊な道具も要らないだろうし、
解らない単語に出くわすことも少ないだろう。
私は無謀にも、この【Water Color 1】を受講することにした。

大学は近いと行っても、やっぱり歩いて行ける距離ではない。
夜の7時からクラスが始まるので、夕食を済ませてから、
夫に学校まで送ってもらうことになった。

緊張の初日、ドキドキしながら、クルマを降りた。
夫は【じゃあ、9時に迎えに来るからね~】と明るく帰っていった。
建物の中に入って驚いた。外から見るより、ずっと広い。
そして、たくさんの人が、バタバタと廊下を行き来していた。
ホールの案内板で、自分の教室を探すと、私の行くべき教室は
一番奥だ。急がないと遅れてしまう。
私は、他の人と同じように、廊下をバタバタと歩き出した。

別館は美術室群になっていた。
廊下を彩るカラフルな作品、ホールや廊下のいたるところに
怪しい石膏像が並び、美大の雰囲気をかもし出していた。
美大に行きたかった私は、ここが英語の国であることも忘れて、
ワクワクと高揚していた。・・・そう、自分の教室に入るまでは。

私が駆け込んだ教室は、階段状になった講義用の広い部屋だった。
すでに10人くらいの人が座っていた。
机に腰掛けて談笑していた、スリムな長髪の男性が
私を見つけて立ち上がって、ニッコリ笑った。

【こんにちは、キミは、、、カスピちゃんだねー。ようこそ、ボクのクラスへ】

目の前に歩いてきた男性は、黒のピッチリした透け感のあるシャツと
パンツに身を包み、肩までの茶色の巻き髪が、
外国映画の【いかにもプレイボーイ】というルックスのゲイジツ家だった。

【初めてだよー、ボクのクラスに黒髪のアジアンビューティーが参加してくれたのは】

カレは、私の手を取って、ダンスのポーズのように挨拶した。
私はドギマギしながらも、カレが勧めた席に着いた。

初日はオリエンテーションで、先生はいろいろな必要画材、紙の種類、
今後の予定、そして学ぶべき技術や芸術論などについて説明していたのだと思う。
【だと思う】というのは、全く解らなかったのだ。
【これが英語か?!】と思うほど、全く聞き取れなかったのだ。
時折聞こえる単語で、今ナニについて話しているかは解るのだが、
いったいみんながナニをメモしているのか、ナニに笑っているのか、
全くチンプンカンプンだ。
私の背中はすでに冷や汗でぐっしょりと濡れていた。

英語学校で交わされる英語は、大分聞き取れるようになっていた。
だけど、今目の前で飛び交う英語は、全く違う言語だ。
例えば、私たちも日本語を得意としない外国人と話すときは、
きっちりとした文法で、はっきりとした発音、そしてゆっくりと正しい文章で
話しかけるはずだ。
「あなたは、昨日どこへ行きましたか?」と。
しかし、日本人同士、友だちと話すときは違う。
「昨日、どこに行ったの?」というだろう。
私の地元なら、「昨日、どこ行ったん?」だ。
・・・これと同じことが起こっている。
ネイティブのカナダ人が普通に交わす会話は、英語学校のソレとは
全く別物なのだ!

そのとき、先生が多分お互いをモデルにして描きあう、というようなことを
言ったのだと思う。
カレは自分の顔の前に指でフレームを作って、
生徒たちの顔をひとりずつ覗いた。
私を指のフレームに納めて、セクシーな声で

【うーん、キミはいいモデルになりそうだねぇ~】とささやいた。

私は【こういうこと】に馴れていない。多分、大多数の日本人女性は
こうした【からかい】にどう対処していいか、馴れていないはずだ。
私はドキドキしながら、困ったときに日本人がする【笑顔】を浮かべて
黙っていた。
すると、またもや先生が何か言って、他の生徒が私を見て
ウインクしながら笑ったのだ。
何だ!?ナニを言ってるんだ?・・・・・さっぱり解らない!!!
とにかく今のこの時間が早く終わってくれることだけを願って、
その場に座りつづけた。

ほどなく休憩時間になった。
私は教室を飛び出して、公衆電話に走った。
家に電話をかけて、夫にすぐさま迎えに来て欲しいと叫んだ。
英語が全く解らない、何がなんだかわからない、とにかくすぐに
迎えに来てくれ!と。
夫はのんびりとした声で、今日はとにかく終わりまでがんばれば?
9時に迎えにいくからさ~、とデンワは切られた。

なんとか教室に戻ったが、アタマはパニック状態で、もうとにかく
終わることだけを願って席に着いた。
ほとんどの説明を終えた先生が、
【Water Color 2のクラスは今日から絵を描いているから
ソレを見学に行こう】と、私たちに提案した。
ああ、この状態から解放される・・・私はホッとしながら、
みんなの後ろについていった。

ホッとしたのもつかの間、【2】の教室に入って目に飛び込んできた情景に、
私は悲鳴を上げそうになった。
なんと!素っ裸の男性が、円台の上でスポットライトを浴びて
ポーズをきめていたのだ!!!
【2】のクラスの生徒たちは、男性ヌードデッサンをしていた。
時折ポーズを変えるモデルに合わせて、すばやくカラダのラインを
素描写するのだ。
見ないでおこう・・・と思っても、どうしても視線は1点に寄っていってしまう。
【キミはいいモデルになりそうだ】との先生の言葉と、
大きく開けたシャツの胸元が私のアタマの中をグルグルと回り、
今にも倒れそうだった。
イヤだ~助けて~誰か助けて~~!!

チャイムが鳴った。先生の【はーい、今日はここまで。また来週ね~】の言葉は
背中で聞きながら、教室を飛び出した。
だけど、モデルの男性が下着をつけずに、そのままジーンズを履いたことは
しっかりと左目の隅で確認した。
玄関まで走り、夫の迎えの車に飛び乗って、叫んだ。
【私はこのクラスは辞める!!】

英語学校で正しい英語を話しているのは、先生だけだ。
そして、英語学校の英語と、普通の社会の英語は全く別のものだ。
そして、ああいう【からかい】に、おしゃれにかっこよく対処するには
なんと言えばいいんだろう・・・
まだまだ前途多難なのだ。やっていけるんだろうか・・・。
私の無謀なる挑戦は、素っ裸にジーンズを履いた、あのモデルさんの白いお尻の
記憶とともに、あっけなく無残に終わってしまった。


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カスピちゃん

Author:カスピちゃん
弓と布と毛糸と
絵の具と戯れ
メロンパンとたこ焼きを
こよなく愛する
大阪のおかん。

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